行政書士こうべ元町事務所

建退協に関する考察

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建退協に関する考察

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2025/06/20

建退協とは?建設業で働く人の安心を支える退職金共済制度

建設業に従事する多くの方々が、職場を転々とする中でも安定した退職金を受け取れるように――そんな願いから誕生した制度が「建設業退職金共済制度」、通称「建退協(けんたいきょう)」です。この記事では、建退協の基本的な仕組みから、加入対象となる労働者の範囲、正社員や高齢者の加入が認められる根拠などについて詳しく解説していきます。

 


 

 

1. 建退協とは何か?制度の概要と目的

建退協は、昭和39年にスタートした国の制度で、「建設業退職金共済法(昭和39年法律第97号)」に基づいて運営されています。建設業に従事する労働者が、複数の事業主のもとで働いた場合でも、その勤務期間に応じた退職金が一元的に支払われるよう設計された制度です。

元請・下請を問わず、建設現場で働く労働者の福利厚生を確保することを目的としており、事業主が毎月「共済証紙」(1日分単位)を購入・貼付することによって掛金を積み立てていきます。

 


 

 

2. 加入対象となる労働者とは?

建退協の加入対象者は、「建設現場に従事する労働者」です。より具体的には、建設現場での現場作業に常時従事する者であり、雇用形態は問われません。つまり、次のような方が対象となります。

  • 日雇い労働者(典型的な対象者)

  • 有期雇用の常用労働者

  • 正社員(常用雇用者)で現場に従事している者

ここで注意すべき点は、「現場作業に従事しているかどうか」が判断の基準となっていることです。たとえば、正社員であっても本社の内勤業務しか行っていない方や、現場に出ることのない管理職等は対象外です。一方で、正社員でも実際に現場に出て作業している方は加入対象となります。

というのが現在の運用ですが、

 

2-1.建退協の本来の対象者~「建設現場従事者」

建退協は、「建設業退職金共済法」に基づいて、建設現場で働く者のための退職金制度として創設されました。

そのため加入対象者は:

  • 一人の建設労働者が複数の事業主のもとで働くことが前提

  • 雇用形態にかかわらず現場作業に従事していれば対象

という性格を持ち、日雇いや短期契約者を主たる対象としています。

 


 

2-2.正社員や高齢者も加入できるのはなぜか?

建退協制度上、加入に際して「正社員であること」や「年齢」は制限ではありません。以下がその根拠です:

  • 「現場に従事しているかどうか」が唯一の判断基準である

  • 正社員であっても、現場に出て作業していれば加入できる

  • 年齢制限については、法令にも実務運用にも存在しない

したがって、正社員でも高齢者でも「現場に出ている限り」加入資格があるというのが公式な立場です。

 


 

2-3.ではなぜ「正社員になったこと」が共済金請求理由になるのか?

ここが混乱を生む点ですが、「正社員になったこと」「55歳以上になったこと」が共済金の請求理由として認められているのは、制度が次のような構造になっているためです:

  • 建退協は「事業主をまたいで就労する不安定雇用層」のための制度である

  • 正社員になると「安定雇用」「別の退職金制度の対象」とみなされる

  • よって、「建設業退職金共済制度」から“卒業”する合理的理由とされる

つまり、正社員でも加入はできるが、「継続的・安定的な正社員となったこと」は、もはや建退協の対象外になったことを意味するため、退職金の受給事由として認められているのです。

 

 


 

3. 55歳以上の労働者も加入できるの?

建退協には年齢制限がありません。つまり、55歳以上の労働者であっても、加入要件を満たせば共済手帳の新規発行および証紙貼付が可能です。

退職金制度であるがゆえに、「高齢者は対象外なのでは?」と誤解されがちですが、実際には制度上明確な年齢制限は設けられていません。これは制度が「生涯にわたって建設現場で働く人の退職金を公平に支給する」ことを理念としているためです。

そのため、制度上の制限は存在しません。

しかし、実は共済金の請求事由に55歳に達したことが存在することから、次にあげる正社員同様、制度趣旨から考えるとどうなんだろうかとは思われます。

 

 


 

4. 正社員も加入できるのか?その根拠とは

多くの方が混乱しがちなのが「正社員も建退協に加入できるのか?」という点です。答えはYESです。

建退協は「雇用形態」ではなく「現場に従事しているかどうか」で判断されます。そのため、日雇いでも、契約社員でも、正社員であっても、「建設現場で作業に従事していれば」対象となります。

実際、建退協の公式パンフレットやFAQでも、正社員の加入は当然の前提として説明されており、「現場に従事していること」が一貫したキーワードになっています。

また、厚生労働省の見解(通達)においても、「正社員であるか否かは加入資格の判断材料ではない」ことが繰り返し示されており、正社員で現場に従事している者への共済手帳発行・証紙貼付が正当である旨が明示されています。

 

結論から申し上げると、ご指摘のとおり、「正社員の加入を制度上明確に認める法的根拠は存在せず」、あくまで実務慣行や一部支部・業界団体による拡大解釈の域を出ていないのが実情です。

以下、法制度と実務運用の乖離に関する現実と問題点を整理します。

 


 

 

4-1. 法律上の定義は「現場従事者」だが、対象は曖昧に運用されてきた

建設業退職金共済法(第2条)は、加入対象となる「労働者」について以下のように定義しています:

「この法律において『労働者』とは、建設業の事業に雇用され、建設の現場において建設の事業に従事する者をいう。」

この規定には「正社員・非正規」の別はありませんが、制度創設当初から法の趣旨としては、

  • 日雇い・短期雇用など雇用の継続性がない建設労働者のための制度

  • 複数の事業主をまたぐ就労実態に対応した退職金制度

という前提が明確でした。

そのため、「正社員になったこと」が共済金請求事由の一つに含まれていることからも、正社員は本来的に建退協の対象から外れるべき存在と位置づけられていることは否定できません。

 


 

4-2. 建退協本部の立場は「支部による実務判断であって制度的に正当化されない」

上記の点を、建退協本部に問い合わせると:

「正社員の加入を制度上積極的に認めているわけではない。支部等が現場実態に応じて個別判断しているケースがあるが、それは法的根拠に基づく制度的解釈ではない」

という回答が得られるのは事実です。これはつまり、次のような意味を持ちます:

  • 正社員であっても「実態として日雇いや短期就労に近い働き方」であれば、支部判断で手帳発行されることがある

  • しかしそれは制度本来の趣旨から逸脱した例外的対応にすぎず、公式な法令解釈ではない

  • 法律上「正社員は原則除外されるべき存在」という立場が、共済金請求事由からも示唆されている

  •  


 

4-3. なぜ「正社員でも加入可」という法律の想定外と思われる運用が広まったのか?

この運用が広まった背景には、次のような点が挙げられます:

  • 一部の労働基準監督署や支部が、「現場に出ていれば誰でも加入可能」として実務運用を柔軟に行っていた

  • 建退協のパンフレット等において「雇用形態を問わない」と記載されているが、それは日雇い・契約・請負等の非正規間の区別を意味する文脈であり、正社員の恒常的雇用にまで当てはめるべきではなかった

  • 企業側が福利厚生や制度活用の一環として、誤って「正社員も加入すべき」と理解した

こうした背景から、「法令では想定されていない加入」が、現場レベルで行われ続けたという実態があります。

 


 

4-4. 制度の内部矛盾:加入できるのに、正社員になったら請求理由になる

建退協制度では、次のような矛盾が実務上存在します:

加入時 現場に出ていれば正社員でも手帳発行される(実務運用)
請求時 「正社員になったこと」は共済金請求理由の一つ

つまり、制度上は「正社員になった時点で建退協の対象から外れた」と判断しているにもかかわらず、加入は認めてしまっている、という二重構造があります。

この点は建退協本部でも制度上の整合性に課題があることを認識しており、本来は早期に法令改正や運用基準の明確化が必要な領域です。

 


 

 

4-結論:正社員の加入は制度趣旨に反する可能性が高く、支部の裁量に依存しているにすぎない

  • 法律上、正社員を明示的に除外してはいないが、制度趣旨上は本来対象外

  • 正社員が加入していた場合も、制度側はそれを「誤加入」ではなく「対象から外れたので共済金請求できる」という処理で整合性を取っている

  • 加入を認めているのではなく、「誤加入が制度内で取り扱えるような構造になっている」だけ

 


 

5. なぜ事業主は建退協に加入しなければならないのか?

建退協は任意加入の制度ではありますが、公共工事の受注や建設業許可の取得・維持にあたって加入状況が重要視されます

例えば、以下のような実務的メリット・義務があります。

  • 公共工事の入札要件として「建退協への加入」や「証紙の適正貼付」が求められる場合がある。

  • 経営事項審査(経審)において建退協の加入・証紙貼付実績が加点対象となる。

  • 労働基準監督署等の調査時に、「法定福利制度の実施状況」の一環として建退協加入がチェックされることがある。

つまり、労働者保護の観点に加え、企業としてのコンプライアンス上も建退協の活用は不可欠といえます。

 


 

6. 加入・運用の実務~共済手帳・証紙・請求まで

実際に建退協を運用するためには、以下のような流れが必要です。

  1. 事業主の登録(建退協への事業主登録)

  2. 共済手帳の交付(現場作業に従事する労働者に発行)

  3. 共済証紙の購入・貼付(労働者の作業日数に応じて)

  4. 証紙受払簿・台帳の記録

  5. 退職後の証紙貼付日数による退職金請求

共済手帳は本人に交付され、証紙の貼付によって退職金の原資が積み立てられていきます。建退協の退職金は、一定の証紙貼付があれば原則として請求可能です(例:3年相当以上など)。

 


 

まとめ:建退協の正しい理解が、企業と労働者の信頼を築く

建退協は、単なる「退職金制度」ではなく、建設業界における労働者保護と企業の信頼性向上のために重要な制度です。

✅ 正社員でも現場従事者なら加入可能(ただし、無期雇用になったら共済請求事由)
✅ 高齢者も制限なく加入可能(ただし、55歳に到達したことは共済請求事由)
✅ 公共工事や経審にも直結する重要制度(ただし、規定上は加入の有無が審査対象のはずが、現状は審査上加入履行を求めるため加入履行をどうやって充足するかが経審対策としても重要)

制度を正しく理解し、的確に運用することで、働く人にとっても企業にとっても、将来の安心を築くことができます。

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