経営事項審査における建退共の履行について
2025/06/20
建退共は現場で働く非正規の労働者(日雇い職人など)が建設業界を離れる、正社員になる、55歳以上の高齢になるなどの共済事由発生時に退職金を受け取ることができる制度です。
経済学上の考え方として公共工事には日雇い労働者などにお金が回るため景気対策として有効であるとされることから、公共工事でも特に雇用振興の目的を内包した工事の入札には建退共の加入を条件にしているものも少なくありません。
経営事項審査(経審)における建退共関連の評価項目は、法令上「加入の有無」を評価するのみであるにもかかわらず、実務では「加入履行証明書」の提出まで求められるという現象が生じています。これは、制度本来の評価趣旨と実務運用との間に明確な乖離があるという典型例です。
以下、その法的根拠、現実運用との矛盾、なぜそうなっているのか、という点を体系的に整理して解説します。
① 経営事項審査の建退共項目における条文上の規定
建設業法施行規則(昭和24年建設省令第14号)に基づく経審の評価項目のうち、「社会性等に関する評価項目」(W点)において、建退共に関連する評価は以下のように定められています:
「建設業退職金共済制度の適用を受けている者」について加点評価を行う。
この「適用を受けている」とは、基本的に:
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建退共の事業主登録をしている
-
適正に運用をしている。(対象者がいれば共済手帳を交付している。下請けに対象者がいれば下請けに証紙の交付をしている。それらに配布する適切な証紙の購入がされている。など)
という形式要件を満たしていれば足りると解されており、「証紙貼付の実績」や「履行状況」までは法令上問われていません。
② にもかかわらず、なぜ「加入履行証明書」が求められるのか?
実務では、以下のような書類が経審申請時に必須です:
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「建設業退職金共済制度加入・履行証明書」
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証紙の貼付枚数・対象人数・直近の履行状況を審査され建退共が適切な履行をしていると判断しなければ発行されない。
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この背景には、以下のような実務的懸念と行政上の運用判断があるとされています。
1.「名義だけの加入」の排除
建退共の事業主登録だけして手帳発行もせず、実際には一切運用していないケースが多発していたため、以下のような実態を行政側が問題視:
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単に事業主登録だけして「加入している」と称する
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実際には誰にも共済手帳を交付しておらず、証紙も貼っていない
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加点だけを目的とした“空加入”
こうした“形式的加入”を排除するため、実質的履行状況の確認が求められるようになったのです。
とはいえ、現状本来の制度対象者である日雇いや非正規の現場労働者自体がほぼ存在しないという現状があるのも事実です。
2.加入履行証明書の発行しかしない建退共
法的には「加入の有無」のみでよいはずですが、多くの地方整備局や都道府県の経審担当窓口では、加入履行証明書が取れない場合には加点がされません。
さらに、建退共のほうでも加入証明書の発行がなく、加入履行証明書しか発行しないといった運用をしているため、適正な運用(自社従業員は中退共に全員が加入し、下請けも一人親方ばかりで、対象者がいないため証紙の購入や下請けへの交付がない)をしていても加入履行証明書が取れないために加点がもらえない。といったことが起こります。そうならないためには、自社の従業員のうち一人を中退共を脱退させるとともに建退共に加入させ、その人の手帳を更新することで加入履行証明書を入手するといったことをしなければなりません。
③ 法令上の矛盾:加入の有無だけでいいのに、実態証明が求められる
この実務運用は、以下の点で法令上の評価基準と明確に矛盾します:
法令上の要件 | 実務上の要求 |
---|---|
建退共の加入(登録・手帳交付) | 加入履行証明書(証紙貼付実績) |
共済手帳の交付が確認できれば評価対象 | 貼付枚数が少ないと加点不可とされる場合も |
つまり、加点評価の本来の条件を超えて、運用上は「実際にどれだけ制度を活用しているか」までを問われているのです。
④ この実務運用は違法ではないのか?
結論として、違法とまでは言えませんが、「法令を上回る行政裁量に基づいた指導的運用」ではないかと思われます。つまり:
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本来の評価要件ではないことを行政指導で事実上の前提にしている
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これに従わない場合に加点されない可能性があるが、法的争いになれば業者側が勝つ可能性もあるかもしれません。
この点で、制度運用の透明性と予測可能性を損なっているという問題は明確に存在すると思われます。
⑤ まとめ:経審の建退共評価項目は「制度趣旨」と「実務運用」に乖離がある
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経審では法令上「建退共に加入していること」だけが加点評価の対象
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実務では「加入履行証明書」が求められ、証紙貼付の実績が事実上の要件に
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これは制度趣旨の「加入促進」に沿っているが、法的基準を逸脱した行政運用である
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加点を確実に得るには、事実上「手帳交付+証紙貼付」が必要とされる現実に注意
実際には、雇用対策として対象になる日雇いや非正規の現場労働者自体が現在の建設現場には存在ができないため、本来中退共に加入するべき無期雇用の労働者や、労働者でもない一人親方などを加入させるとともに、経審の加点を餌に証紙の購入を強制して制度を運用している。ある意味すでに役目を終えているのではないかと思われる。とはいえ、 経審対策には加入履行証明書の入手が可能な運用をする必要がある。
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